DXの最大の課題は「人材不足」。中小企業は“攻め”の前に、システムを守る人から消えていく

「攻めのDX」という言葉が、現場には少し遠く響きます。AIを使った新規事業、データ活用、業務の自動化。どれも大事だと頭では分かっている。でも、その前に「今動いているこのシステムを、誰が守るのか」が決まっていない。

DXの最大の課題は、大企業でも中小企業でも「人材不足」です。ただ、中小企業で先に崩れるのは、新規開発やAI活用を担う「攻め」の人材ではありません。今動いている業務システムを維持する「守り=保守・運用」の担い手のほうが、先に枯れていきます。そして守りが枯れると、攻めにも進めなくなります。

以下では、なぜ中小企業で「守りの人材不足」が先に起きるのかを構造で整理し、人を増やさずに守りを支えるための現実的な選択肢を、順を追って見ていきます。


DXの最大の課題は、大企業でも「人材不足」だった

まず、DXの課題が「人材不足」だというのは、中小企業に限った話ではありません。むしろ、潤沢に人を採れるはずの大企業でさえ、人材不足を最大の課題に挙げています。

NECが2026年4月17日に公表した調査では、DX推進の最大の課題として「DX推進のための人材不足」が76.5%で挙がりました(NEC「DXに関する調査」)。

ここで注意したいのは、この調査の母集団です。

この調査が見ているのは「大企業」です。 NECの調査は、売上高300億円以上の企業に属する課長職以上を対象に、200サンプルから回答を得たものです(調査時期は2025年10〜11月、公表は2026年4月17日)。つまり、中小企業の実態を直接調べた数字ではありません。本記事では「大企業ですら人材不足が最大の課題」という対比として参照します。

採用予算も、社内の人員も、中小企業よりずっと多いはずの大企業。その大企業でも、DXの一番の壁は技術やお金ではなく「人」だった。この事実は、中小企業にとって重い意味を持ちます。大企業が人で詰まっているなら、人の絶対数が少ない中小企業では、同じ問題がより早く、より深刻に現れると考えるのが自然だからです。

同じ調査では、DXの進み方に二極化も見られます。「業務効率化」には75.5%が取り組む一方、「事業変革」に取り組むのは45.0%にとどまり、限られた人的資源がどちらに割かれるかで差が開いていく。人が足りないからこそ、どこに人を割くかの判断が、そのまま成果の差になっていきます。

中小企業は、この数字をどう読むか

「大企業の調査でしょう。うちには関係ない」と読み飛ばしてしまいそうになります。でも、読み替えるべきはここです。

大企業の「人材不足」は、おもにDXを前に進める人、つまり新しい仕組みを作る人が足りない、という文脈で語られます。一方、中小企業の人材不足は、その手前にあります。新しいものを作る人以前に、今あるものを維持する人がいない。次の章で、この「攻め」と「守り」のずれを整理します。


「DX人材不足」と聞いて思い浮かべる人材は、たいてい“攻め”側だ

「DX人材が足りない」と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのは、おそらく次のような人です。データを分析して経営判断に活かせる人。新しいサービスを企画して形にできる人。AIを業務に組み込める人。

実際、DXの議論はこうした攻めの人材を中心に進みます。先ほどのNECの調査でも、AIエージェントの「導入・検討(計)」が合わせて77.8%にのぼっています(NEC「DXに関する調査」)。AIで何ができるか、どう攻めるか。関心はそちらに向きがちです。

攻めの人材が大事なのは間違いありません。ただ、ここで一度立ち止まりたいのです。

皆さまの会社の業務システムは、今この瞬間、誰によって動いているでしょうか。

新しいAIを企画する人ではなく、受注を処理し、在庫を管理し、請求書を出すあの画面を、毎日問題なく動かし続けている人。エラーが出たときに原因を探り、サーバーの空き容量を気にし、サポート期限が近い箇所を把握している人。それが“守り”の人材です。

中小企業の業務システムは、攻めの人材ではなく、この「今動く基幹を守る人」によって支えられています。そして問題設定をずらすなら、中小企業で本当に足りないのは、攻めの人材である以前に、この守りの担い手なのです。


中小企業では、攻めより先に「守りの担い手」が枯れる

ここが本記事の核です。なぜ中小企業では、攻めより先に守りの担い手が枯れるのか。これは「うちの努力が足りないから」ではなく、構造的にそうなりやすい、という話です。

守りが枯れる、3つの入口

守りの担い手は、ある日突然いなくなるわけではありません。多くの場合、次のどれかの入口から、少しずつ枯れていきます。

1つ目は、唯一の社内SEが兼任していて、やがて退職するケース。 冒頭の総務兼情シスの方のように、本業の片手間でシステムを見ている人が、社内に1人だけ。その人が退職したり、本業が忙しくなったりした途端、システムを把握している人がゼロになります。1人に依存している状態は、その1人が抜けた瞬間に守りが消える、という意味で最ももろい構造です。社内SEの退職をきっかけに保守をどう立て直すかは、社内SEが退職したら?システム保守を任せる開発会社の選び方で詳しく整理しています。退職が決まった時点で何を確認すべきかは、社内SEの退職が決まったら?経営者が確認すべき引き継ぎチェックリストにまとめました。

2つ目は、外部ベンダー任せで、社内に知見が残らないケース。 作ったのは外注先で、社内には誰も中身を知る人がいない。これ自体は悪いことではありません。問題は、そのベンダーと連絡が取りにくくなったり、担当者が変わったりしたときに、社内に判断の手がかりが何も残っていないことです。守りを丸ごと外に預けていたつもりが、預け先が薄くなると、社内に守りの記憶が一切ない状態に陥ります。

3つ目は、ドキュメントが古く、属人化しているケース。 仕様書が作った当時のまま更新されていない。あるいは最初から存在しない。改修のたびに「あの人の頭の中」だけで対応してきた結果、ドキュメントを見ても今の実態が分からない。こうなると、たとえ人がいても、その特定の1人以外は守りに入れません。

経済産業省は2018年のDXレポートで、既存システムが「老朽化・複雑化・ブラックボックス化」に陥ることを警告し、放置すれば2025年以降に大きな経済損失が生じうると指摘しました(経済産業省「DXレポート」)。そして2025年5月時点の経産省・デジタル庁・IPAによる総括では、レガシーシステムが依然として6割超の企業に残存していることが報告されています(経済産業省「レガシーシステムのモダン化に関する総括レポート」)。「中身が見えにくくなる」のは特殊な不運ではなく、放っておけばどの会社にも起こる、ありふれた現象だということです。

守りが枯れると、攻めも止まる

守りの話を、攻めと切り離して考えてはいけません。両者はつながっています。

新しいAIツールを業務に組み込みたい。基幹システムのデータを分析に使いたい。SaaSと連携させたい。こうした“攻め”の施策は、ほぼ例外なく、今動いている基幹システムを土台にします。その土台の中身が誰にも分からず、触れる人もいない状態では、攻めに必要な改修やデータ連携に手をつけられません。

つまり、守りは攻めの前提条件です。土台がぐらついたまま上に新しいものを積もうとしても、積めない。守りの担い手が枯れている会社は、いざ攻めに転じようとしたときに、その入口で動けなくなります。攻めのDXに進むためにこそ、まず守りを誰が担うかを決める必要があるのです。


人を増やさずに「守り」を支える、中小企業の現実的な選択肢

では、どうするか。「守りの人を採用しましょう」と言いたいところですが、それが難しいのは多くの経営者がすでに実感している通りです。人を増やさずに守りを支える、という前提で、現実的な手順を3つの段階で整理します。

段階1:現状を見える化する(誰が・何を・どこまで触れるか)

最初にやるべきは、新しい仕組みの導入でも採用でもなく、棚卸しです。

今ある業務システムについて、「誰が」「何を」「どこまで触れるか」を一枚に書き出します。サーバーやクラウドの管理者権限は誰が持っているか。エラー時に対応できるのは社内の誰か、それとも外部か。仕様書やマニュアルはどこにあり、いつ更新されたものか。連絡が取れる開発会社はあるか。

地味な作業ですが、ここが抜けたまま対策を打つと、たいてい空回りします。守りが枯れている会社ほど、まず「自社が今どこまで守れているのか」が見えていないからです。

段階2:守りの一部を外部に委託し、社内の人は本業・攻めへ

見える化で穴が見えたら、その穴を外部委託で埋めます。ここで大事なのは、いきなり全面刷新を狙わないことです。

「中身が古いから作り直しましょう」という話に飛びつく必要はありません。多くの中小企業にとって現実的なのは、保守・運用の部分から外部化することです。日々のエラー対応、セキュリティ更新、サポート期限への対応といった「守り」を外部に持ってもらい、社内の限られた人は本業や、いずれ取り組む攻めの施策に集中できるようにする。守りを丸ごと作り直すのではなく、守る役割の一部を外に出す、という発想です。

人を増やさずに老朽化したシステムへ対策を打つときのコスト感は、システム老朽化の対策とは|中小企業がとれる3つの選択肢とコスト感で具体的に整理しています。また、守りを後回しにすると何が起きるか、いつ動くべきかの判断軸は、中小企業がシステム保守を後回しにできない3つの理由で経産省DXレポートをもとにまとめました。あわせて読むと、自社がどの段階にいるかを判断しやすくなります。

段階3:委託の「持ち方」を選ぶ(月額固定だけが選択肢ではない)

外部委託を決めたら、その持ち方にも選択肢があります。

一般的なのは月額固定の保守契約です。毎月決まった額を払い、何かあれば対応してもらう。安定はしますが、使わない月も費用が発生するため、「動いてはいるが頻繁には触らない」システムには割高に感じることもあります。

最近は、実際に動いた分だけ請求する**実働ベース(従量課金)**で保守を持つ会社も出てきました。普段は静かに見守り、必要なときだけ動いてもらう。守りの担い手が枯れかけているが、毎月の固定費はかけにくい、という中小企業にとっては、初期の負担を抑えながら守りを確保する一つの選び方になります。

どちらが合うかは、システムの触る頻度や社内の体制によります。実働ベースが常に正解というわけではなく、頻繁に改修が走るなら月額固定のほうが見通しが立つこともあります。大事なのは「月額固定しかない」と思い込まず、自社の使い方に合う持ち方を選ぶことです。


まとめ — 「攻めのDX」は、守りを誰が担うかを決めてから

最後に、本記事の要点を3つに絞って振り返ります。

  • DXの最大の課題は人材不足。それは大企業でも同じ。NECの調査(売上300億円以上・課長職以上が対象)でも、最大の課題は人材不足(76.5%)でした。人で詰まるのは大企業も中小企業も変わりません。
  • 中小企業で先に枯れるのは、攻めではなく“守り”の担い手。唯一の社内SEの退職、外部ベンダー任せで残らない知見、古いドキュメントと属人化。この3つの入口から、今動くシステムを維持する人が先に消えていきます。
  • まず動くなら、現状の棚卸しから。新しい仕組みや採用に手を出す前に、「誰が・何を・どこまで触れるか」を一枚に書き出す。自社が今どこまで守れているのかが見えれば、外部委託すべき穴も、その持ち方の選び方も、おのずと決まってきます。

攻めのDXは魅力的です。でも、その施策はすべて、今動いているシステムという土台の上に乗ります。土台を誰が守るかが決まっていないまま上に積もうとしても、たいてい入口で止まります。

だからこそ、順番は逆です。新しいことを始める前に、今のシステムを誰が守るかを決める。それが、中小企業がDXに進むための、地に足のついた第一歩です。

よくある質問

Q. 守りの保守は、月額固定でないと頼めないのでしょうか。

いいえ、月額固定だけが選択肢ではありません。一般的なのは月額固定の保守契約ですが、最近は実際に動いた分だけ請求する実働ベース(従量課金)で保守を持つ会社も出てきました。「動いてはいるが頻繁には触らない」システムで、毎月の固定費はかけにくいという場合は、実働ベースが選択肢の一つになります。一方で頻繁に改修が走るなら、月額固定のほうが見通しが立つこともあります。どちらが合うかは、システムを触る頻度や社内の体制によって変わります。

Q. 守りを立て直したいのですが、まず何から始めればよいですか。

新しい仕組みの導入や採用ではなく、現状の棚卸しから始めることをおすすめします。今ある業務システムについて、「誰が」「何を」「どこまで触れるか」を一枚に書き出します。管理者権限を持つのは誰か、エラー時に対応できるのは社内か外部か、仕様書はどこにありいつ更新されたか、連絡が取れる開発会社はあるか。ここが見えてはじめて、どこを外部に委託すべきかが判断できます。

Q. 中身が古いシステムは、作り直さないと守れませんか。

必ずしも作り直す必要はありません。多くの中小企業にとって現実的なのは、全面刷新ではなく、保守・運用の部分から外部化することです。日々のエラー対応やセキュリティ更新、サポート期限への対応といった「守り」を外部に持ってもらえば、作り直さずとも今動いているシステムを維持できます。刷新が本当に必要かどうかは、その後で判断しても遅くありません。


守りの担い手が枯れかけているなら、人を増やさず守りを支える一つの方法として、保守・運用を外部に持ってもらう選択肢があります。弊社のシステムレスキューは月額固定ではなく、実際に動いた分だけ請求する実働ベース(従量課金)の保守です。まずは現状のご相談からでもお気軽にお問い合わせください。

システムレスキュー

開発会社が廃業した、担当者が退職した、仕様書が残っていない。そんな業務システムを引き取り、保守・改修を継続します

/service/system-rescue/

関連記事