中小企業がシステム保守を後回しにできない3つの理由 — 経産省DXレポートが示すレガシーシステムのリスク

「業務システムって、動いているのにそんなにお金をかける必要あるの?」

中小企業の経営者の方とお話ししていると、こうした声を本当によく聞きます。確かに、ぱっと見、動いている。何の問題もない。むしろ毎月の保守費用のほうが目につく。その感覚は、よく分かります。

ただ年現在、その「動いているから大丈夫」がいちばん危ない、という状況になりつつあります。

本記事では、経済産業省のDXレポートをはじめとする一次情報をもとに、システム保守を後回しにすると何が起きるのか、そして中小企業が今から踏み出すための判断材料を整理します。経営者の方が「自社のシステムをどう考えればいいか」を判断するときの手がかりになれば幸いです。


レガシーシステムとは何か — 「古い=悪」ではありません

「レガシーシステム」と聞くと、20年前の古臭いシステムを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも、ここを誤解されている経営者の方が多いので、最初に整理させてください。

経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、レガシーシステムを次の3つの状態に陥った既存システムとして定義しています。

  • 老朽化: 言語やフレームワーク、サーバーOSのサポートが切れている
  • 複雑化: 何度も改修を重ねた結果、全体像がよく分からなくなっている
  • ブラックボックス化: 仕様書がない、コードを読める人もいない、中身が誰にも分からない

つまり、稼働年数の長さそのものは本質ではありません。「保守できる状態かどうか」が分かれ目です。

10年動いていても、仕様書が整備されていて、システムを把握しているエンジニアが在籍していれば、レガシーとは呼びません。一方で、稼働してまだ5年でも、仕様書がなく担当者が辞めてしまったら、それはもうレガシーです。

弊社が業務システムの引き取り相談を受ける現場でも、この3つのうち少なくとも1つに該当するケースが圧倒的多数です。「うちはまだ大丈夫」と思っていても、実は条件にあてはまっている、ということは珍しくありません。


経産省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」は、もう現実になっている

レガシーシステムの放置がどれほど大きな問題か。これについて、経済産業省は2018年から繰り返し警鐘を鳴らしてきました。「2025年の崖」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

2018年9月に公表されたDXレポートには、こんな警告があります。

レガシーシステムを放置すれば、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある

出典: 経済産業省「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」

「12兆円」と聞くと大袈裟に感じるかもしれませんが、同レポートには「2025年には21年以上稼働している基幹系システムが約6割になる」という具体的な予測も含まれていました。

「2025年の崖」とは 経産省DXレポートで使われている言葉です。レガシーシステムの問題を解決できないまま2025年を迎えると、デジタル競争で取り残され、大規模な経済損失が発生する状況を指しています。

そして、実際に2025年を迎えた今、何が起きているか。

2025年5月に経済産業省・デジタル庁・IPAが共同で取りまとめた「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」では、こう報告されました。

ユーザー企業の61%にレガシーシステムが残存している

出典: 経済産業省「レガシーシステム脱却に向けた『レガシーシステムモダン化委員会総括レポート』を取りまとめました」

2018年の予測は、ほぼそのまま現実になりました。崖は遠い未来の話ではなく、いま目の前にあります。

そして、この問題でいちばん不利な立場にいるのが、実は中小企業です。大企業のように専門のIT部門があるわけでもなく、人材の確保も難しい。「変えなきゃいけないことは分かっているけど、誰もやってくれない」という状態に陥りやすいのが現実です。


システム保守を後回しにすると起こる3つのリスク

ここから本題です。レガシーシステムを放置すると、具体的に何が起きるのか。弊社が現場でよく目にする3つのリスクをご紹介します。

リスク1: 保守費用は、放っておくほど膨らんでいく

ちょっと意外に聞こえるかもしれませんが、「保守費を抑えたい」と思って放置していると、結果的に保守費用が増えていきます。

経済産業省の「DX推進指標とそのガイダンス」(2019年7月)には、レガシーシステムを放置した企業の状態として、こう書かれています。

維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上を占めるようになる

出典: 経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」

つまり、IT予算100万円のうち90万円が「ただ動かし続けるだけ」に消えていく、ということです。新しいことに投資しようにも、お金が残らない。

これは「技術的負債」と呼ばれる現象です。クレジットカードの利息のようなもの、と考えていただくとイメージしやすいかもしれません。最初は小さな対応の積み重ねでも、放置するほど雪だるま式に膨らんでいきます。

家のメンテナンスにも似ています。雨漏りを「まだ大丈夫」で放置していたら、気づいたら屋根全体を張り替えるしかなくなっていた。そういう話と構造はまったく同じです。

「保守費がもったいない」という発想で保守を最低限に抑え続けるほど、将来の保守費用が増えていく。これがレガシーシステム最大のジレンマだと感じています。

このジレンマの背景には、保守契約が「月額固定で全部込み」になっていることが多く、使っていない月も同じ金額が出ていく構造があります。最近は、実際に動いた時間に対してだけ請求する**実働ベース(従量課金)**で保守を持つ選び方も出てきました。使わない月の固定費が消えるため、保守を「もったいない」と感じにくくなり、放置のきっかけを減らせる発想です。

リスク2: サイバー攻撃の標的になる

2つ目は、セキュリティのリスクです。「うちみたいな小さい会社、狙われないでしょ」と思っている方こそ、ぜひ読んでください。

帝国データバンクが2025年に発表した調査によると、企業の32.0%がサイバー攻撃を受けた経験があると報告されています(出典: 帝国データバンク「サイバー攻撃に関する実態調査(2025年)」)。

3社に1社、というスケール感です。さらに警察庁の発表によれば、2024年における中小企業のランサムウェア被害件数は、前年から37%も増加しました。

「規模が小さいから狙われない」は完全な誤解 攻撃者は規模ではなく「セキュリティの隙」を見ています。むしろセキュリティ対策が手薄になりがちな中小企業のほうが、攻撃者にとっては入りやすい標的です。自社が侵入経路となり、取引先にまで被害が広がるケースも増えています。

レガシーシステムが特に危険なのは、サポート切れのOSや古いライブラリを使い続けているからです。新しい脆弱性が見つかってもパッチが出ない。つまり「鍵が壊れたままの裏口」がずっと開いている状態です。

IPAが毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」では、ランサムウェアが3年連続で1位を取り続けています。「うちには関係ない」という時代は、もう終わっています。

リスク3: ある日突然、誰も触れなくなる

3つ目は、いちばん経営者の方に「ぞっとした」と言われるリスクです。

開発を依頼していた会社が廃業した。担当エンジニアが定年で辞めた。社内で唯一仕様を理解していた人が転職した。こうしたことが重なると、システムは「動いているけど、誰も中身を分からない」状態になります。

弊社にご相談いただく事例で、本当によくあるパターンです。

  • 「ベンダーに電話したら、もう会社がなかった」
  • 「担当者が辞めて、引き継ぎがなかった」
  • 「コードはあるけど、もう誰も読めない」
  • 「仕様書を探したら、メモ書き程度のものしか出てこなかった」

こうなると、ちょっとした不具合の修正にも数日かかります。最悪、業務が完全に止まる事態にもなりかねません。

経産省DXレポートでも「保守運用の担い手がいなくなり、トラブルやデータ滅失等のリスク大」と明記されています。

「動いているうちは大丈夫」という発想は、何かが起きた瞬間に通用しなくなります。そして、その「何か」がいつ起きるかは、誰にも分かりません。


中小企業が今日から始められる3つの判断軸

ここまでリスクの話ばかりで、不安になられた方もいらっしゃるかもしれません。でも、安心してください。いきなり大金をかけて全部作り直す必要は、まったくありません。

中小企業の経営判断として、まず踏み出しやすい3つの判断軸をお伝えします。

判断軸1: まず「いま自社のシステムがどうなっているか」を見える化する

最初にやるべきは、現状把握です。

レガシーシステムの問題でいちばん厄介なのは、「自社のシステムが今、どんな状態なのかが分からない」ことです。これでは判断のしようがありません。

まずは以下を整理してみてください。

  • 使っている言語・フレームワーク・DBのバージョンと、そのサポート期限
  • 稼働しているサーバーのOSやハードウェアの状態
  • セキュリティパッチの適用状況
  • ソースコードや仕様書があるか、それを読める人はいるか
  • 業務フローと、システムのどの機能が対応しているか
  • 障害が起きたとき、誰に連絡すればいいか

これが見えるだけで、リスクの全体像と優先順位がはっきりします。「次に何をすべきか」の議論ができる状態になる、ということです。

判断軸2: 「全部作り直す」は最後の手段でいい

「DX」や「クラウド移行」と聞くと、つい「全部作り直さないと」と考えがちですが、これは中小企業にとって現実的な選択肢になりにくいと感じています。

費用も期間も、業務への影響も大きすぎるからです。

弊社の経験では、現状のシステムをそのまま引き取って保守を続けながら、優先度の高いところだけを段階的に直していく、というアプローチが現実的に機能するケースが多くあります。

  • 危険な脆弱性だけ先に塞ぐ
  • サポート切れの言語・OSをバージョンアップする
  • 困っている業務フローだけ、部分的に作り直す

このやり方なら、予算と業務の負担を抑えながら、リスクは着実に下げていけます。「ゼロか100か」ではなく「20%だけでも動かす」、これが中小企業のシステム保守にはよく合っていると感じています。

判断軸3: 長く付き合える相談相手を持つ

3つ目は、信頼できる相談相手を見つけることです。

レガシーシステムへの対応は、単発の工事ではうまくいきません。診断、改修、保守、そして将来の計画相談まで、同じ相手と続けてやり取りできれば、毎回ゼロから事情を説明する手間がなくなり、判断のスピードも上がります。

開発会社を選ぶときに見ていただきたいのは、こんなポイントです。

  • 仕様書がなくても引き受けてくれるか
  • 古い言語・フレームワークでも対応できるか
  • いきなり全面リプレースを勧めず、段階的な改善を提案してくれるか
  • 継続的にサポートしてくれる体制があるか(料金は月額固定だけでなく、実働ベースの選択肢も含めて自社の使い方に合う形を選べるか)
  • トラブル時の連絡窓口がはっきりしているか

まずは「診断」から始めるのがおすすめ 保守や改修の判断は、現状把握なしには下せません。診断は比較的軽い投資で実施でき、次のアクションを決めるための材料が手に入ります。「何から手をつければいいか分からない」という段階こそ、診断から始めるのが現実的です。


まとめ — 保守は「コスト」ではなく「安心して事業を続けるための投資」

最後に、お伝えしたかったことを整理します。

  1. レガシーシステムは「古いから悪」ではない。経産省も「老朽化・複雑化・ブラックボックス化」という、保守が困難な状態を指してそう呼んでいる
  2. 保守を後回しにすると、保守費は膨らみ、サイバー攻撃に狙われ、ある日突然誰も触れなくなる。2025年現在、これらは現実の問題として多くの中小企業で起きている
  3. でも、いきなり大規模刷新は不要。現状を見える化し、段階的に進め、長く付き合える相談相手を持つ。これだけでも大きく前進できる

業務システムの保守は、目に見える成果が出にくいので「無駄な出費」と感じやすい領域です。ただ、本記事でお伝えしてきた通り、放置するほどリスクは大きく、しかも年々深刻になっています。

「動いているシステム」を「動かし続けられるシステム」にする。これはコストではなく、安心して事業を続けるための投資だと感じています。先送りすればするほど、選べる道は狭くなります。

「うちのシステム、大丈夫かな」と少しでも感じたら、まずは状況の整理からでもご相談いただけます。弊社のシステムレスキューは月額固定ではなく、実際に動いた分だけ請求する実働ベース(従量課金)の保守です。使わない月は費用が発生しません。

システムレスキュー

開発会社が廃業した、担当者が退職した、仕様書が残っていない。そんな業務システムを引き取り、保守・改修を継続します

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