使った分だけ払う業務システム保守――「スポット保守」と実働ベース料金の現実解

請求書を見るたびに思う。先月もシステムには何も触っていない。それでも保守料は今月も同じ額が引き落とされる。年末に集計してみると、実際にベンダーへ依頼した作業は片手で数えられる回数しかなかったのに、支払額は12か月分まるごと積み上がっている。

「使っていないのに払い続けている気がする」——業務システムの保守費について、こうした感覚を持っている経営者・情シス担当者は少なくありません。月額固定の契約は安心感がある一方で、稼働実態と支払額が乖離していくと、固定費の重さだけが残ります。

実は、月額契約と「何もしない」放置の間には、「スポット保守」と呼ばれる第3の選択肢があります。問題が起きたときだけ、実際に動いた工数に対して請求する考え方です。すべての会社にとって最適というわけではありませんが、年に数回しか作業が発生しない規模のシステムでは、月額固定よりも実態に合うケースがあります。

スポット保守の仕組み、向く会社・向かない会社、契約しない代わりに備えておきたいこと、そして相談時に何を伝えれば判断が前に進むかを、開発と保守の両方を手がける立場から順に整理します。


なぜ業務システムの保守は「月額固定」が当たり前になっているのか

保守業界で月額固定の契約形態が主流になっているのには、構造的な背景があります。ベンダーが不当に儲けようとしているという話ではなく、サービスの性質上そうならざるを得ない事情があるためです。

保守という仕事の本質は、障害が起きたときにすぐ動ける状態を維持することにあります。技術者を一定数確保し、対象システムの中身を把握した状態で待機させ、いざというときの応答時間(SLA)を担保する。この「待機」のコストは、実際に作業が発生したかどうかとは無関係に発生します。月額固定の料金は、この待機分を平準化して請求する仕組みとして定着してきました。

加えて、保守の現場では大規模・中規模システム向けに作られたモデルが、そのまま中小規模のシステムにも適用されている事情があります。本来は社内に情シス部門があり、毎月のように改修依頼が出る企業を想定して作られた契約形態が、年に数回しか連絡しない中小企業にも同じ前提で提示される。結果として「使っていないのに払い続ける」感覚が生まれます。

ここで気をつけたいのは、月額固定そのものが悪いわけではないという点です。業務がシステムに強く依存していて、止まると損失が大きい会社にとって、待機費を払って即応性を買うことには合理性があります。一方で、止まっても半日くらいなら回せる、年間の作業依頼が数回程度に収まるような規模であれば、待機費を払い続けるのは過剰投資になっている可能性があります。

保守費の中身そのもの——インフラ運用費・アプリ保守費・問い合わせ対応費・セキュリティ対応費・待機費の5要素——をどう分解して読むかは、保守費が妥当か分からない業務システム――内訳・相場・打ち手の順で見直すで詳しく整理しています。本記事では、その上で「契約形態そのものを変える」という選択肢に絞って見ていきます。


スポット保守(実働ベース)とは何か――定義と料金の仕組み

スポット保守とは、保守契約を結ばず、問題が発生したときに都度依頼して、実際に動いた工数に対してだけ料金を支払う保守の形態です。月額固定で「待機」を買う契約とは性格が異なり、保守費を変動費として持つ形になります。月額の固定料金は発生せず、待機費も基本的に含みません。「パーコール保守」と呼ばれることもあり、もともとは機器保守の世界で使われてきた用語ですが、近年は業務システムの保守にも同じ考え方が広がってきています(参考: サードパーティメインテナンス「スポット保守(パーコール保守)とは?特徴やメリット・デメリットを解説」)。

料金の組み立ては、おおむね「時間単価 × 実働時間」が基本になります。月額契約のように「月○○万円で何時間まで含む」という枠を先に決めるのではなく、依頼があったときに調査・修正・テスト・反映それぞれにかかった工数を積み上げ、その分だけを請求する。使わなかった月の請求はゼロです。

月額固定との違いを表にすると、性格の差がはっきりします。

比較軸月額固定契約スポット保守(実働ベース)
月々の費用作業の有無に関係なく一定作業が発生した月だけ請求
待機費含まれる基本的に含まれない
単発の作業単価枠内なら追加なし/枠外は別料金1件ごとに時間単価で積算
障害時の応答SLAに基づき即応受付後に都度調整
向く規模感作業が頻繁に発生する/止まれない業務年数回の作業/半日程度の停止は許容できる

スポット保守は、月額契約より単発の費用は割高になりやすい性格があります。準備・調査の工数が毎回ゼロから積み上がるためです。それでも年間で均してみると、作業件数が少ない会社ほど月額固定より総額が下がる、という構造になります。「単発は高いが、トータルでは安い」というのが、向いている会社にとってのスポット保守の見え方です。


スポット保守が向く会社・向かない会社

スポット保守は万能ではありません。前述のとおり、即応性を犠牲にする代わりに固定費を消す仕組みなので、向く・向かないの線引きがはっきりしています。

判断の目安はシンプルです。年間に発生する作業時間 × 時間単価が、現在払っている年間の保守料を下回るなら、スポット保守の方が経済的に有利になります。逆に上回るなら、月額固定の方が結果として安いか、もしくは即応性まで含めて妥当な投資になっているということです。

過去1年に何回ベンダーへ依頼したか、それぞれおおよそ何時間かかったかを書き出してみてください。これだけで、自社がどちら寄りなのかの大枠は見えてきます。

向く会社向かない会社
年間の作業依頼が片手〜両手程度で収まる毎月のように改修・問い合わせが発生する
業務システムが止まっても半日程度なら回せる数時間の停止が業績や顧客対応に直結する
社内に最低限の一次対応ができる人がいる障害発生時に外部即応を前提に業務設計している
保守料を固定費から変動費に切り替えたい予算管理上、毎月の支出を一定にしておきたい
改修より「現状維持」が当面の方針機能追加が継続的に発生している

中小企業の業務システムは、左側の条件に当てはまるケースが少なくありません。受発注・在庫・原価・勤怠といった、すでに業務に馴染んで動いている仕組みで、年に何度か仕様変更や軽微な修正があれば足りる、というパターンです。ここに月額固定の保守料を払い続けるのは、契約形態と実態がずれている状態と言えます。

ただし、線引きは固定費の話だけで決めない方が無難です。たとえば受注処理が止まると当日の出荷が止まる業務であれば、即応性を買う意味は大きい。半日くらい止まっても電話やExcelで回せる業務なら、即応性の優先度は下がる。業務がシステムにどれだけ依存しているかを一緒に見ないと、安いほうを選んだつもりが、いざというときに困る選び方になりかねません。


スポット保守の現実的な使い方――契約しない代わりに何を備えるか

スポット保守を選ぶ場合、月額契約で暗黙に担保されていたものを、自社側で持ち直す必要があります。「契約しないから何もしなくていい」のではなく、契約していない期間に困らないための備えが要る、という発想です。実務的には、次の3点を押さえておけば、いざ作業が発生したときの立ち上がりがまったく違います。

1つ目は、ソースコードとサーバ管理者権限の保全です。 スポット保守を依頼するとき、もっとも時間を食うのは「対象システムの中身が分かる状態にする」ところです。ソースコードが手元になかったり、サーバの管理者権限が以前のベンダー側にしかなかったりすると、依頼を受けた側はそこから取り戻す調査だけで何時間も使ってしまいます。月額契約から外れる前に、コード一式・サーバアカウント・ドメイン・SSL証明書・DB接続情報を自社管理に戻しておく。これは契約形態を変える・変えないにかかわらず、やっておく価値のある作業です。

2つ目は、現状把握レポートを一度作っておくことです。 どのサーバで何が動いていて、どのモジュールがどの業務に対応しているか、いま何がリスクとして残っているか。簡単な台帳でも構いません。これがあると、スポット依頼のときに「調査だけで半日」という事態を防げます。応急処置で済むのか本格的な改修が要るのかの判断も、レポートがあるかないかで初動の速さが変わります。

3つ目は、連絡経路の段取りです。 月額契約では「何かあったらこの番号」が決まっていますが、スポット保守ではこちらから連絡して見積もりを取り、合意してから動くという順序になります。誰がベンダーに連絡するか、どこまでの金額なら社内決裁を経ずに発注するか、緊急時の判断者は誰か。この段取りを事前に決めておくと、いざというときに「連絡待ち」で半日溶ける状況を避けられます。

この3つは、スポット保守を選ばない場合でも、業務システムの運用を一段健全に保つために有効な備えです。属人化を解消し、保守体制そのものを立て直す全体像については、レガシーシステムの運用管理を立て直す3つの手順:属人化からの脱却も合わせてご覧ください。スポット保守か月額契約かを判断する前段として、まず自社のシステムが「他人に説明できる状態」にあるかを点検する観点が整理されています。


スポット保守と月額契約、どちらに転んでも答えが出る相談の仕方

ここまで読まれた方の中には、「自社はスポット保守に切り替えた方がいいのか、それとも月額契約を続けた方がいいのか、自分では決めきれない」と感じている方も多いと思います。これは正直なところで、業務の止まらなさをどこまで重く見るかという経営判断が絡むため、技術論だけでは答えが出ません。

そのときに無理のない進め方は、スポット保守と月額契約のどちらにも倒せる開発会社にセカンドオピニオンを依頼することです。月額契約だけを提案してくる会社、あるいは逆に「契約は不要、必要なときだけ呼んでください」一択で来る会社では、自社の状況に合っているかどうかの判断が偏ります。両方の選択肢を並べたうえで、業務依存度・年間の作業件数・社内のIT体制を踏まえて、現実的な落としどころを一緒に検討してくれる相手の方が、結果として遠回りになりません。

弊社にご相談いただくケースでは、ヒアリングの結果として月額契約の継続をお勧めすることもあれば、スポット保守へ切り替えた方が実態に合うとお伝えすることもあります。実働ベース(従量課金)の料金体系を採っているのは、後者のニーズに応えるためで、すべての会社にスポット保守を勧めているわけではありません。

あわせて、初回のご依頼は成果保証の形でお引き受けしています。お預かりした内容が直らなかった場合は料金を頂きません。はじめての相談先として動きやすい構造を意識しています。

即応性を必要とする業務には、それに見合った契約形態を選ぶのが筋だと考えています。スポット保守を勧めるかどうかは、料金体系の都合ではなく、業務の止まらなさをどこまで重く見るかという経営判断から考える、というのが弊社のスタンスです。

引き継ぎ先や相談先として開発会社をどう選ぶか、契約前に何を確認するかは、社内SEが退職したら?システム保守を任せる開発会社の選び方で整理しています。スポット保守を扱える会社かどうかも、選定時の確認ポイントの1つに加えていただくと、選択肢の幅が広がります。

なお、保守費の見直しではなく、システムそのものをリプレースする方向で見積もりを取ったが妥当性が分からない、というご相談は業務システムのリプレース見積もりが高すぎる時の妥当性を見極める3つの基準で別途整理しています。保守の契約形態を変える話と、リプレースで一時費用を見直す話は判断軸が違うので、分けて考えると整理しやすくなります。


まとめ

業務システムの保守を考えるときに、最後にお伝えしたい点は3つです。

1つ目は、保守の契約形態は月額固定の一択ではないということ。スポット保守(実働ベース・従量課金)という選択肢があり、年間の作業件数が少なく、半日程度の停止を許容できる業務であれば、固定費の重さを解消する現実解になります。

2つ目は、契約形態を選ぶ前に、自社の業務がシステムにどれだけ依存しているかを点検すること。安い方を選ぶことが目的ではなく、即応性と費用の釣り合いを実態に合わせ直すことが目的です。

3つ目は、スポット保守を選ぶ場合でも、ソースコード・サーバ管理者権限の保全、現状把握レポート、連絡経路の段取りの3点は事前に整えておくこと。契約しないことと、備えないことは別の話です。

業務システムの保守の契約形態の見直しや、月額契約からスポット保守への切り替えを検討されている方は、弊社の以下のサービスもご検討ください。料金は月額固定ではなく、実際に動いた分だけ請求する実働ベース(従量課金)です。使わない月の請求は0円です。

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