業務システムは買う?作る? SaaSで足りる会社と、作った方がいい会社の見分け方

「あの会社、システムを入れてずいぶん楽になったらしい」。

取引先との雑談や業界の集まりで、こんな話を耳にする機会が増えていないでしょうか。展示会に足を運べば「御社の業務にぴったりです」とSaaSを勧められ、ネットで調べれば「作らないと本当の効率化はできない」という開発会社の記事が並ぶ。

何を解決したいかは、なんとなく見えている。それなのに、既製のサービスで足りるのか、それとも作らないとダメなのか、そこで手が止まってしまう。

弊社は業務システムを受託で作る側ですが、ご相談の中でSaaSで十分だと判断すれば、正直にSaaSをお勧めします。 作る前提で話を進めるほうが弊社の売上にはなりますが、要らないものを作ってもらっても、結局は使われずに終わるからです。この記事では、その「買うか・作るか」を発注側が自分で判断できるように、線の引き方を整理します。

なお、ここで扱うのは「これから新規に、ゼロから何で作るか」という入口の話です。すでに古いシステムがあって作り直すか迷っている場合は、古いシステムの作り直しを3つの選択肢で並べた整理の方が近いので、そちらもあわせてご覧ください。


「買う」か「作る」かは、何を基準に決めればいいのか

判断の軸は、突き詰めると1つです。「その業務が、どこの会社もやっている標準的な仕事か、それとも自社ならではの仕事か」。標準に近いほど「買う」(SaaS・パッケージ)で足り、独自性が高いほど「作る」(スクラッチ)寄りになります。

まず4つの選択肢を、一度きちんと分けておく

「買う」と「作る」は、実際には4つの選択肢に分かれます。混同されがちなので、一度定義しておきます。

  • SaaSとは、インターネット経由で月額利用する既製のサービスです。会計、勤怠、顧客管理など、多くの会社に共通する業務向けに完成品が売られています。
  • パッケージとは、自社のサーバーなどに導入して使う、これも完成済みのソフトです。SaaSに近いですが、買い切り型や大規模な基幹業務向けが多い区分です。
  • ノーコードとは、プログラムをほとんど書かずに、画面上の設定で業務アプリを組み立てられるツールです。kintoneが代表格です。
  • スクラッチとは、自社の業務に合わせてゼロから開発する、いわゆる自社開発(フルスクラッチ)です。

左から右へ進むほど自由度は上がり、そのぶん費用と期間、そして自社で面倒を見る責任が増えていきます。

迷った時に立ち返るのは「標準か、独自か」

このうちどれを選ぶかで悩んだら、機能表の比較に入る前に、まず自社の業務を「標準」と「独自」に仕分けしてみてください。請求書の発行、経費精算、勤怠の打刻。こうした業務は正直どの会社でもやり方に大差はありません。ここに独自のシステムを作るのは、たいてい過剰投資です。

一方で、その会社が長年かけて磨いてきた段取りや競合と差がつく現場の判断が組み込まれた業務は既製の型に押し込むと、かえって強みが削れてしまいます。買うか作るかは、この仕分けの結果として決まってくるものです。手段から入らず業務の性質から入る。ここが出発点になります。


SaaSで足りる会社の特徴とは

まず、正直に「作らなくていい線」から書きます。解決したい業務の8割ほどがSaaSの標準機能で回るなら、SaaSで足ります。残り2割を運用の工夫で吸収できるなら、なおさら作る必要はありません。

業界特化のSaaSが既にあるならまずは

近年は、特定の業種に特化したSaaSが驚くほど増えています。飲食、美容、医療、士業、不動産、製造。自分たちの業界の名前とあわせて探すと、その業務の型がはじめから作り込まれたサービスが見つかることが少なくありません。

汎用のサービスだと物足りないと感じた業務でも、業界特化のSaaSなら初めから想定内ということはよくあります。作ることを検討する前に、まずこの手のサービスを2つ3つ触ってみる。これだけで「作らずに済んだ」というケースは、弊社がご相談を受ける中でも珍しくありません。

業務を標準に寄せる余地があるかどうか

SaaSで足りるかどうかはSaaSの性能だけでは決まりません。自社の業務を標準的なやり方に寄せられるかどうかも大きく効きます。

「うちのやり方は特殊だから合わない」と感じる業務の中には、実は昔からの慣習で複雑になっているだけというものが混じっています。そこを見直して標準的な流れに整えれば既製のSaaSにすっと収まることがあります。SaaSに業務を合わせるのは妥協ではなく、むしろ業務を筋肉質にする機会にもなり得ます。

SaaSで足りるのに独自開発に踏み切ると、初期費用だけでなく、その後の保守や改修も自社で抱え続けることになります。作る判断は「SaaSでは無理だと確かめた後」で遅くありません。まずは既製品で足りない部分を具体的に書き出すところから始めると、判断がぶれません。


逆に作った方がいい会社の特徴とは

作る側に寄るのは業務のやり方そのものが競争力の源泉になっていて、SaaSの決まった型に押し込むとその強みが消えてしまう会社です。ここはSaaSでは無理をしてでも避けたい領域になります。

複数のSaaSに分かれて、二重入力が起きている

ありがちなのが業務ごとに別々のSaaSを入れた結果、同じデータを何度も手入力している状態です。受注はA、在庫はB、請求はC。それぞれは便利でも、あいだをExcelや手作業でつないでいる。この転記とつなぎ込みに毎日時間が溶けているなら自社の業務に合わせて中心部分を作る意味が出てきます。

SaaSの制約が売上や現場のスピードを縛っている

もう1つのサインは、SaaSの仕様が理由で「できないこと」が、売上や顧客対応に直結し始めている場合です。標準機能にない在庫の持ち方、SaaSが想定していない料金体系、外部の機器との連動。こうした独自要件を運用の工夫で回している状態が続くと、SaaSの予約データや在庫データそのものが現場の実態とずれていきます。

この「SaaSの型と業態固有の要件が、運用2〜3年目にずれてくる」様子は、個室サウナの予約システムで無料SaaSが詰まる場所に具体的に書きました。特定の業態の話ですが、SaaSの限界の出方は業種を問わず似た形をとるので、自社に置き換えて読んでいただけると思います。

ただし、ここで一気にフルスクラッチへ飛ぶ必要はありません。「SaaSは残したまま、苦手な部分だけ薄く作る」という中間の解があります。これは最後の章で改めて触れます。


ノーコード・kintoneは「買う」と「作る」の間をどう埋めるのか

ノーコードやkintoneは、「買う」と「作る」のちょうど中間に位置します。標準SaaSでは型が合わないけどフルスクラッチは重い。その隙間を埋めるのが、この選択肢の役どころです。

向いているケース

ノーコードが力を発揮するのは、次のような場面です。

  • 業務の変化が速く仕様がまだ固まりきっていない
  • 小さく試してうまくいったら広げたい
  • 現場の担当者が自分たちで画面や項目を直したい

プログラムを書かずに設定で組めるため、作り始めるハードルが低く後から手直ししやすい。「まず形にして、使いながら育てる」やり方と相性が良い選択肢です。

向かないケース

一方で、ノーコードにも苦手な領域があります。

  • 複雑な計算ロジックや細かい条件分岐が数多く絡む処理
  • 大量のデータを高速にさばく必要がある業務
  • 多くの外部システムと込み入った連携をする必要がある

こうした要件が中心になるとノーコードのツール上で無理に作り込むことになり、かえって分かりにくく直しにくいものができあがります。そうなると、結局スクラッチのほうが素直だったという結末になりがちです。ノーコードは万能でも、逆に非力でもありません。得意な範囲を見極めて使う道具です。


月額は積み上がる ― 5年TCOで本当のコストを比べる

「SaaSは安い、作ると高い」という比較は初期費用だけを見た話です。SaaSの月額は利用人数と年数のぶんだけ積み上がります。数年という単位で見ると初期費用の大小だけでは判断を誤ることがあります。ここは5年間の総額(TCO=総保有コスト)で並べて比べるのが安全です。

数字は「規模で大きく振れる」前提で見る

まず前提として、この手の費用は会社の規模や作り方で大きく変わります。以下はあくまで一例として、外部の試算を引きます。

ある比較記事の試算では、小規模(15ユーザー)の5年間の総額を、SaaS(kintone想定)で約275万〜415万円、同じ規模をスクラッチで作った場合に約810万〜910万円と見積もっています。この規模ではSaaSが明確に安い。ところが同じ試算で中規模(60ユーザー、高機能なSaaS想定)になると、SaaSは約4,364万〜5,164万円、スクラッチは約2,100万〜2,700万円と、逆転しています(出典: みんなシステムズ「SaaSとスクラッチ開発の5年間TCO比較」2026年4月公開、参照時点 2026年7月)。

逆転が起きる理由は単純で、SaaSのライセンス費が「単価 × 人数 × 年数」で積み上がるからです。人数が増えて年数が延びるほど、月額の合計は効いてきます。

スクラッチの初期費用の相場感

作る側の相場も幅を持って押さえておきます。別の記事では、スクラッチ開発の費用を小規模で200万〜500万円程度、大規模な基幹システムで2,000万〜3,000万円程度としています(出典: 発注ナビ「スクラッチ開発の費用相場」2026年6月公開、参照時点 2026年7月)。金額の大部分はエンジニアの人件費で、「人月単価 × 人数 × 期間」でおおよそ決まります。

大事なのは、これらの数字を自社にそのまま当てはめないことです。人数が少なく短期で使うならSaaSが有利、人数が多く長く使い込むほどスクラッチの固定費が生きてくる。この「効き方の違い」を理解したうえで、自社の人数と利用年数で試算してみるのがおすすめです。見積もりの金額が妥当かどうかの見極めは、リプレース見積もりの妥当性を見極める3つの基準でも扱っているので、実際の相見積もりを前にした段階では、あわせてご覧ください。


迷ったら「まず作らない」から始める

ここまで読んでも判断がつかないなら答えは1つです。まずSaaSで回してみて、SaaSが苦手な部分だけを後から薄く作る。いきなり全部スクラッチに飛ばない。これが失敗したときの傷がいちばん浅い進め方です。

最初から完璧な1本のシステムを作ろうとすると要件は膨らみ、費用も期間も跳ね上がります。しかも、使い始めるまで本当に必要な機能は分かりません。それより、既製のSaaSで日々の業務を回しながら「ここだけはどうしてもSaaSで足りない」という箇所を見極める。その足りない部分だけを、自社向けに薄く作り足す。前章で触れた「SaaSは残して、苦手な部分だけ繋ぐ」という発想はこの段階的な進め方そのものです。

そして、作ると決めたなら、開発に入る前に業務の側を整えておくと、成否がぐっと変わります。属人化したやり方をそのままシステムに乗せると、使われないシステムができあがるからです。この順番については、システム導入前に取り組む業務標準化の3ステップにまとめました。「何で作るか」を決めた後の、次の一歩として読んでいただけます。


まとめ

業務システムを「買うか・作るか」は機能表の比較ではなく、業務の性質から決まります。振り返ると、判断の軸はこうなります。

  • 標準的な業務ほど「買う」(SaaS・パッケージ)で足りる
  • 業務のやり方そのものが競争力なら「作る」寄りになる
  • その中間はノーコードやkintoneで埋められることがある
  • 費用は初期だけでなく5年間の総額(TCO)で比べる
  • 判断に迷うならまずSaaSで回し、足りない部分だけ後から薄く作る

弊社は作る側ですが、SaaSで足りるならSaaSをお勧めします。作るべきときにだけ作る。この線を一緒に引くところからのご相談を、いつでもお受けしています。

Webシステム開発

業務に合わせたオーダーメイドのシステム開発と、SaaSを残したまま足りない部分だけを薄く繋ぐ受託開発を承っています。作るべき範囲の見極めからご相談いただけます。

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「そもそもSaaSで足りるのか、作るべきなのか」という手前の段階でも構いません。現状を伺いながら、一緒に線を引くところから始めます。

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よくある質問

SaaSとスクラッチ、結局どちらが安いのですか

利用人数が少なく、短い期間で使うならSaaSが安く済むことが多く、人数が多く、長く使い込むほどスクラッチの固定費が生きてきます。初期費用だけでなく、5年間の総額(TCO)で比べてください。金額は会社の規模や作り方で大きく振れるため、相場の数字を自社にそのまま当てはめないことが大切です。

kintoneのようなノーコードで、業務システムは作れますか

変化が速い業務や、現場が自分で手直ししたい業務なら、ノーコードで十分に作れます。一方で、複雑な計算や大量データの処理、多くの外部連携が中心になると、ノーコード上での作り込みが苦しくなり、スクラッチのほうが素直になります。得意な範囲を見極めて使うのが向いています。

SaaSで足りるかどうかを、自分たちで見分けるには

解決したい業務を書き出し、そのうちどれだけが既製のSaaSの標準機能で回るかを確かめてください。8割ほどが回り、残りを運用の工夫で吸収できるならSaaSで足ります。まずは自社の業界名で検索し、業界特化のSaaSをいくつか実際に触ってみるのが早道です。

補助金を使えば、システムを安く作れますか

デジタル化・AI導入補助金など、条件を満たせば導入費用の一部が補助される制度はあります。ただし、事務局に登録された既製のSaaSやツールが対象の中心で、自社向けのフルスクラッチ開発は対象外、もしくは扱いが限定的になりやすい領域です。制度は年度で内容が変わるため、申請前に一次情報で最新の対象範囲を確認してください。

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